令和3年4月
獣医学部長
滝口 満喜

 

エルムの杜から世界に羽ばたく獣医師を

 

 

 北海道大学獣医学部は、明治43年、東北帝国大学農科大学畜産学科獣医学講座に始まり、1949 (昭和24)に獣医学科、1952 (昭和27に獣医学部となりました。獣医学部設置後65年を迎える歴史と伝統ある学部であり、昭和30年以降、2,500名余の卒業生を輩出してきました。

 獣医学部を目指す学生の多くが、小さいころから動物が好き、あるいは動物、特に伴侶動物 (ペットの病気を治したいという思いが進学の動機になっているようです。ペットの病気の診断・治療あるいは予防を通じて、ペットの健康を維持して飼い主に安寧を与えることは獣医学の重要な使命です。しかし、獣医学の使命は多岐に渡ります。獣医学は、伴侶動物、動物性タンパク質等の生産を目的とする生産動物、野生動物、および人を含めた地球上の全ての動物の健康、さらにはこれら動物が構成する生態系の健全性の維持(One health)に責任を持つという大きな使命があります。従って、生産動物の飼養管理技術の向上による畜産物の生産性の向上と安全性の確保、環境毒性および野生動物の保護管理を含む生態系保全、動物から人に感染する人獣共通感染症の発生防止や食品衛生などの公衆衛生活動も、獣医師に求められる役割です。さらに、獣医学は生命科学の一翼を担い、生命現象の解明や医薬品の開発などにも重要な役割を果たしています。

 また、獣医師には地球規模での活動が求められます。交通網や移動手段の発達により、国境を超えて、人、動物、あるいは畜産物が容易に往来する中、輸出入される畜産物の安全性確保、高病原性鳥インフルエンザや口蹄疫など国境を越えて侵入し大きな社会経済的被害をもたらす越境性動物感染症対策、国境に関係なく発生する人獣共通感染症への対応など、国際的な枠組みで問題解決が必要な課題が数多くあります。このような背景から、国際的水準の獣医師育成が求められています。日本も例外ではなく、国際的水準の獣医学教育による、国際通用性のある獣医師の育成は国益にも影響する重要な課題です。

 そこで平成24年度から、北海道大学獣医学部は、帯広畜産大学と共同獣医学課程を組織して、北海道というフィールド、およびお互いの特徴と強みを活かした先進的な獣医学教育を進めています。北海道大学は、小動物臨床、基礎獣医科学、生命科学、および感染症分野などに強みがあります。また、帯広畜産大学は、大動物臨床および食品衛生分野などに特色があります。これらを融合することで一つの大学では達成が困難であった、国際的水準に合致した教育体制を構築しました。学生の皆さんは入学後、両大学の教員から教育をうける環境に身を置くことになります。札幌と帯広はJR2時間半程度の距離があり、決して近い距離ではありませんが、face to faceを基本とした教員・学生の相互乗り入れによる授業を行います。学生時代に2つの大学を経験することは、学問のみならず、学生生活にとっても大いにプラスになることでしょう。

 獣医師として社会で活動するためには、獣医師としての技能はもちろんのこと、科学的思考に基づく判断能力、課題発見と問題解決能力、コミュニケーション能力、協調性と自主性など多くの素養が求められます。また、グローバルに活動するには、確固たるアイデンティティを持ちつつも多様な文化を理解して受け入れる資質が必要です。獣医学部では専門教育に加えて、これらの素養の育成にも取り組んでいます。学部生の海外派遣も積極的に行っており、エジンバラ大学、カセサート大学、チュラロンコン大学、ザンビア大学、コロラド州立大学との教育交流により学部教育の国際化を推進しています。

北海道大学は豊かな自然に恵まれた広大なキャンパスを有しています。このような恵まれた環境で勉学に励み、知識のみならず人間力を兼ね備えたグローバルに活躍できる獣医師・獣医科学研究者を目指す高い志と意欲を持った学生諸君の入学を歓迎します。