会長挨拶(平成30年)

堀内 基広 (昭和61年卒)

 

 豪雨、酷暑、台風、地震と、天災が続いております。被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。北海道胆振東部地震の際には、多くの同窓兄姉からお見舞いと励ましのご連絡をいただきました。獣医学部では人的被害はありませんでしたが、床の亀裂、本館と講義棟の間の屋根を支える支柱のずれや周辺のアスファルトの凹凸など地震の爪痕が残っています。地震が北海道の電力供給基地である苫東を直撃したため、停電が長引き、札幌の都市機能が数日間麻痺しました。危機管理の不十分さを認識する契機となりました。
 昨年の会報で、大学院獣医学研究科を、学院・研究院へと改組して、教員が所属する研究組織である「獣医学研究院」、大学院教育組織である「獣医学院」および「国際感染症学院」として新たなスタートを切ったことをご報告しました。1年を経過して、3名のDeanが密接に連携し(獣医学研究院長:小職;獣医学院長:昆泰寛教授 [昭56卒];国際感染症学院長:大橋和彦教授 [昭57卒])、今のところ順調に進んでいます。昨今、博士離れが問題視されていますが、初年度は定員を超える入学者を受け入れました。平成23年に採択された大型の大学院教育改革プログラムである博士課程教育リーディングプログラム「One Healthに貢献する獣医科学グローバルリーダー育成プログラム」は、会報でも何度か活動内容をご紹介してきましたが、文部科学省からの補助期間が平成29年3月に終了しました。本プログラムでは、外国人・日本人特別選抜の導入、大学院におけるスクーリングの強化、学位審査体制の強化、海外インターンシップや海外疫学演習/共同研究演習などの海外活動の単位化、語学としての英語教育の強化、学生主体の活動の実施、修学支援・経済支援の強化など、様々な大学院教育改革を進めてきました。研究院・学部の基盤配分経費を大きく上回る補助金を頂き推進したプログラムですので、相応の成果が求められます。補助金による各種プログラムが補助期間の終了とともに実質的な活動が停止する事例が多いなか、本プログラムで構築した大学院カリキュラムと各種活動を継承する、「獣医学院」および「国際感染症学院」、の2つの学院を開設して教育研究活動を継続し、さらなる機能強化に邁進する姿勢は、世界をリードする大学を目指す獣医学院・獣医学部の意気込みの表れでもあります。(本稿の校正段階で、嬉しいニュースが飛び込んで来ました。博士課程教育リーディングプログラムの後継とも言われている、「卓越大学院プログラム」に、獣医学研究院・人獣共通感染症リサーチセンターを中心とする組織が申請していた課題が採択されました。これについては、来年の会報で紹介致します。)
 学部教育に話を移します。平成24年度に獣医学部と帯広畜産大学は共同獣医学課程を組織して、互いの特徴と強みを活かした先進的な獣医学教育を開始しました。平成30年3月にその第一期生を輩出しました。今後、自己評価、外部評価、さらには社会からのフィードバックにより、共同獣医学課程の実効性を検証し、自浄能力をもって継続的な教育改善を目指す「教育の質保証 (Quality Assurance)」を実質化させていく必要があります。
 会報でもすでにご報告しておりますが、獣医学部と帯広畜産大学では、共同獣医学課程の教育体制・内容が国際水準にあることを担保するために、欧州獣医学教育確立協会 (The European Association of Establishments for Veterinary Education, EAEVE) の認証取得による獣医学教育の質保証を目指しています。平成29年7月に事前公式訪問診断 (Consultative visitation, CV) を受けましたが、現在、その際に指摘された要改善事項への対応を進めております。国際認証推進委員会を組織して、公衆衛生学教室の苅和宏明教授(昭59卒)を委員長として、SER (Self Evaluation Report) の作成、バイオセーフティー・バイオセキュリティー対策、Day One Competencesの策定などに取り組んでいます。平成31年7月に本審査 (Full visitation) を受けることが決定しており、帯広畜産大学と協力しながら鋭意準備を進めています。
 共同教育課程ならびに獣医学教育の国際認証取得に関する諸活動は、大学改革強化推進補助金「国立獣医系4大学群による欧米水準の獣医学教育実施に向けた連携体制の構築 (通称:4大学連携事業:平成24~29年度) と総長裁量経費の支援により進めてきました。平成30年度から補助金がなくなることで戦々恐々としておりましたが、概算要求を経て、北海道大学の戦略的取り組みとして「国際獣医師人材を育成する獣医学教育世界展開プログラム」(平成30~34年度)が採択され、活動経費の面では少し安堵しています。このプログラムはIVEP (International Veterinary Education Program) と通称していますが、2本の柱から構成されています。一つは、獣医学教育の継続的な質の向上を目指す活動です。各種シミュレーター、模型などを活用して学生の自学自習を支援するClincal Skills Labの充実、e-learningに使用する映像コンテンツの充実、および学外機関と連携した教育強化が活動の中心となります。もう一つは、学部学生を、エジンバラ大学、コロラド州立大学、タイのカセサート大学、およびザンビア大学に派遣して、総合的な保全医学、先端的獣医臨床、産業動物および野生動物獣医療、あるいは日本にない感染症や野生動物等について経験を積むと同時に、グローバルな思考態度の養成を目的とする活動です。エジンバラ大学とは学内予算を活用しながら過去10年間学部学生の相互派遣を継続してきました。また、大学の世界展開力強化事業 (平成25~29年度) では、東京大学と酪農学園大学と共同で、タイのカセサート大学との単位互換を伴う学生の相互派遣を進めて来ました。さらに、ザンビア大学への学部学生派遣は、平成17~19年の3年間、特色ある大学教育支援プログラム「-アジア・アフリカ諸国を視野にいれて- 国際獣医学教育協力推進プログラム」で、学部学生を派遣してきた実績があります。これら過去の実績を統合し、さらに北米の獣医系大学としてコロラド州立大学を新たな派遣先に加えて、学部学生の海外派遣を積極的に進めます。コロラド州立大学への学生派遣は、同窓であるダクタリ動物病院東京医療センター総合院長加藤元先生(昭31卒)のご好意により設立されたGen Kato Fundも活用します。この原稿を執筆している9月中旬の現時点で、6名の学部学生がザンビア大学、6名がエジンバラ大学、3名がカセサート大学で活動しています。また、北大ではカセサート大学の学部学生6名が実習中です。
 次に、施設の充実についてご報告致します。平成28年度施設整備補助事業の当初予算により、大動物教育研究施設、感染症病原体・化学物質曝露実験施設の 2つの施設の新築、ならびに補正予算により病理解剖室を含む動物実験施設の改修を行いました。これらが平成29年10月から平成30年3月にかけて完成あるいは終了し、平成30年5月に、3施設の竣工記念式典・内覧会を開催しました。
 この1年間で多くの教員の異動がありましたので報告致します。平成30年3月に、生理学教室の葉原芳昭教授(昭50卒)が定年により退職されました。長きに渡る教育研究への貢献に対し心より感謝申し上げます。平成29年11月に放射線学教室の山盛徹准教授(平12卒)が宇宙航空研究開発機構に、平成30年1月に生理学教室の坂本健太郎講師(平14卒)が東京大学大気海洋研究所准教授として、同3月には先端獣医療学教室の高木哲准教授(平12卒)が麻布大学獣医学部准教授として、さらに同6月には、環境獣医科学講座の水川葉月助教が愛媛大学農学部の准教授として転出されました。研究院にとって中堅の先生方が相次いで転出するのは痛手ですが、人材輩出を一つの使命とする大学としての宿命と思い、転出された先生方の益々のご活躍を祈念する次第です。平成30年4月には、薬理学教室准教授の乙黒兼一氏(平6卒)が同教室教授に昇進されました。同じく4月に、外科学教室准教授の細谷謙次准教授(平15卒)が先端獣医療学教室准教授に着任されました。また、同じく4月に、附属動物病院の越後良介特任助教、英語教育担当のMichael Henshaw特任助教が、それぞれ特任講師に昇進されました。また、同4月に、附属動物病院に新坊弦也氏(平23卒)、伊藤晴倫氏の2名の特任助教を迎えました。7月には放射線学教室に安井博宣准教授(平16卒)が着任され、8月には薬理学教室助教の山口聡一郎氏(平17卒)が生理学教室准教授に昇進されました。また、7月には研究院初となる産業創出部門(先端創薬分野)の特任助教として岡川朋弘氏と前川直也氏が着任しました。また、平成30年9月に開催された日本獣医学会で、解剖学教室の市居修准教授 (平成14年卒) が日本獣医学会賞を受賞しました。
 再び教育活動に話を戻します。平成29年2月に、札幌市円山動物園と連携協定を締結し、野生動物・展示動物の獣医療や保全医学の分野で実質的な連携を伴う活動を推進しています。平成30年8月には、札幌市動物管理センターと連携協定を締結しました。動物愛護、シェルターメディスン、収容動物の健康管理等によるhands-on実習、あるいは災害時対応など多方面で教育の充実を図り、また、社会貢献を意識した活動を推進します。平成30年7月から、北海道獣医師会および札幌市小動物獣医師会のご理解と協力を得て、札幌市夜間動物病院に学部学生を派遣して夜間救急医療実習の一部を実施しています。さらには、平成30年度から、北海道庁の協力を得て、食肉衛生検査所での体験型実習も開始しました。附属動物病院では、眼科とエキゾチックアニマル診療科を立ち上げましたが、眼科は札幌市内の認定医の先生にお越しいただき、教育を主目的とした診療活動を実施しています。このように、学外機関との有機的な連携体制を構築しつつ、学生に質の高い実践教育を提供するよう努力しています。
 学部、大学院ともに、大学だけで教育を完結できる時代は過ぎ去りました。高度な専門性に加えて、実践力、創造力、および総合的な問題解決能力を有する人材の育成が求められています。そのためには、今後益々、学外の官産諸機関と連携した教育研究の推進が必要となります。同窓兄姉には、これまでの支援に感謝しつつ、今後より一層のご支援、ご協力ならびにご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。