会長挨拶(令和元年)

堀内 基広 (昭和61年卒)

 

 昨年のこの時期、北海道では北海道胆振東部地震による大規模停電に伴う都市機能の麻痺を経験し、危機管理の重要性を再認識しました。今年は、非常に大型の台風15号、19号が1ヶ月間隔で日本を直撃し、自然災害の爪痕を各所に残しました。被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。一方で、大学および学部では一向に自然災害に対する危機管理が進んでいないことに反省しております。

 

 本年は、何をさておき、欧州獣医学教育機関協会(The European Association of Establishments for Veterinary Education, EAEVE)の本審査受診からご報告せねばなりません。獣医学部と帯広畜産大学は、平成24年度に共同獣医学課程を組織して、互いの特徴と強みを活かした獣医学教育を開始しました。伴侶動物総合臨床実習(ポリクリ)は畜大の学生も含めて80名が札幌で実施し、生産動物ポリクリは北大の学生も含めて80名が帯広で実施するという、相互補完的なポリクリを実施しています。獣医学部と帯広畜産大学では、共同獣医学課程の教育体制・内容が国際水準にあることを国際的な獣医学教育評価機関による第三者評価により担保するために、EAEVEの認証取得を目指してきました。平成29年7月に事前公式審査(Consultative visitation, CV)を受け、その際に指摘された改善事項に鋭意取り組んできました。病理解剖室の全面改修、動物病院の24時間/7日の開院体制の構築、組織運営へのステークホルダー・学生の参画、学外機関の協力を得て獣医師の実際の仕事を経験する機会の増加、ならびに教育に使用する動物種および数の確保、バイオセーフティー・バイオセキュリティー対策、スキルスラボの整備、Day One Competences(獣医師として仕事をする第一日目までに備えておくべき知識・技能)の策定など、ハード、ソフト両面の改善を進め、令和元年7月8-12日に、学生委員1名を含む8名の専門家からなる審査チームにお越し頂き、本審査(Full visitation)の現地視察を受けました。本審査前には他機関の本審査の状況など様々な情報と憶測が飛び交い、心配と不安を増幅させましたが、自分たちの取り組みを信じて、共同教育課程の教育理念、組織体制、および教育内容をしっかり説明すること、背伸びせずに改善の努力を説明することを意識して本審査に臨みました。本審査の最後の7月12日18:00から約30分間、審査チームが現地視察終了時の講評を説明するExit Presentationがありました。Exit Presentation終了後に、その場におられた畜大の先生方全員が涙していました。最終結果は本年12月11日のECOVEの会議で決定となります。それまではConfidentialな部分もあり、畜大の先生方の涙の意味と講評内容を文書に残すことは控えます。本審査前の準備は本当に大変でしたが、北大では担当を決め多くの教員が準備と当日の対応に加わりました。いざという時には一枚岩になる校風は健在であることを再認識しました。

 

 審査の過程で、審査員が総合補完的な共同教育体制に興味を持っていたことが印象に残っています。それぞれの大学の強み・特徴を持ち寄った教育の合理性は衆目の一致するところですが、運営する実務の問題点などを随分と聞かれました。正直なところ、共同獣医学課程開設後7年体を経過し体制維持の大変さに疲弊気味ですが、発足当初の理念を振り返り、志高く今後の改善を進める責務があると感じています。

 

 獣医学部では、共同獣医学課程の国際認証取得とともに、学部教育の国際化推進を目的として「国際獣医師人材を育成する獣医学教育世界展開プログラム」(平成30〜34年度)を進めています。このプログラムをIVEP (International Veterinary Education Program) と呼んでいますが、獣医学教育の継続的な質の向上と学部学生の国際性の涵養の2本の柱から構成されています。後者では、学部学生を、エジンバラ大学、コロラド州立大学、タイのカセサート大学およびチュラロンコン大学、およびザンビア大学に派遣して、総合的な保全医学、先端的獣医臨床、産業動物および野生動物獣医療、あるいは日本にない感染症や野生動物等について経験を積むと同時に、グローバルな思考態度の養成を目的とする活動です。現在は、1学年40名の学生のうち、半数の学生が在学中に海外の獣医学教育を経験できる規模で進めています。出発前と帰国後では、学生の目の輝きが違うことから、教育効果が期待以上に高いと信じて、長期間継続できるよう努力したいと思います。学部学生に引率教育を付けて派遣することで、教員の国際性の涵養と学術交流の発展にも寄与する活動となっています。北大は国際性の涵養を教育理念の一つに掲げていますが、他学部では学部学生の海外活動はさほど進んでおらず、IVEPは組織的な学部学生の留学を伴う北大の特徴的なプログラムとなっています。

 

 次に、大学院についてご報告致します。平成29年度に大学院獣医学研究科を、学院・研究院へと改組して、教員が所属する研究組織である「獣医学研究院」、大学院教育組織である「獣医学院」および「国際感染症学院」として新たなスタートを切ったことは既にご報告しております。同窓各位からは、判りにくいと繰り返しご批判を賜っておりますが、今後も機会ある毎に説明致しますので、ご容赦下さい。旧獣医学研究科では、人獣共通感染症リサーチセンターと共に、大型の大学院教育改革プログラムである博士課程教育リーディングプログラム(博士LP)「One Healthに貢献する獣医科学グローバルリーダー育成プログラム」(平成23〜29年度)を推進してきました(全国で採択プログラム62件の狭き門を通過しました)。本誌でも何度か活動内容をご紹介してきましたが、外国人・日本人特別選抜の導入、大学院におけるスクーリングの強化、学位審査体制の強化、海外インターンシップや海外疫学演習/共同研究演習などの海外活動の単位化、語学としての英語教育の強化、学生主体の活動の実施、修学支援・経済支援の強化など、様々な大学院教育改革を進めてきました。博士LPの良い部分を継承しつつ、北海道大学の大学院教育改革と研究推進をさらに進めるために、平成30年度に公募が開始された「卓越大学院プログラム」に応募しました。これまでの研究成果と大学院教育改革の成果をベースとして、産官学連携による大学院教育研究を目的とするプログラムです。我々が提案するプログラム「One Healthフロンティア卓越大学院」は、1年以上を要した学内選考をくぐり抜け、北大のプログラムとして申請し、昨年10月の本稿脱稿直後に採択の通知を受けました(平成30〜36年度)。昨年度は15件の採択、令和元年度は11件の採択と、博士LP続いて、再び厳しい競争を生き残りました。採択を誇りに思うと同時に、中心部局としての重責にプレッシャーを感じています。卓越大学院プログラムについては、本誌別項でご紹介致します。

 

 この1年間で多くの教員の異動がありましたので報告致します。平成31年3月に、寄生虫学教室の片倉賢教授(昭51卒)が定年により退職されました。長きに渡る教育研究への貢献に対し心より感謝申し上げます。平成30年11月に獣医衛生学教室の長谷部理絵講師(平13卒)が北大遺伝子病制御研究所助教、平成31年4月に動物病院の特任助教の伊藤晴倫先生が山口大学共同獣医学部助教、令和元年7月に繁殖学教室の永野昌志准教授(平7卒)が北里大学畜産学部教授として転出されました。中堅の先生方が転出されるのは痛手ですが、人材輩出を一つの使命とする大学としての宿命と思い、転出された先生方の益々のご活躍を祈念する次第です。一方で、多くの先生方をお迎えしております。平成31年4月には寄生虫学教室教授に野中成晃先生(昭60卒)が着任されました。平成30年12月に生化学教室助教の岡松優子氏(平16卒)が同准教授に昇任され、令和元年6月に動物分子医学教室の山﨑淳平氏(特別会員)が附属動物病院のトランスレーショナルリサーチ推進室の特任准教授に昇任されました。平成31年2月には外科学教室助教として須永隆文氏(平19卒)が着任しました。平成31年4月には、薬理学教室助教として江口遼太氏(平27卒)、附属動物特任助教として笹岡一慶氏(平25卒)および出口辰弥氏(平31博)が着任しました。令和元年6、7、9、および10月に、附属動物特任助教として横山望氏、木之下怜平氏、竹内恭介氏、および田村純氏(平17卒)がそれぞれ着任しました。附属動物病院に多くの特任教員を雇用していますが、共同教育課程におけるポリクリの強化、ならびに動物病院の24時間/7日の開院体制を維持するために、多くのマンパーワーを必要とするためです。

 

 再び教育活動に話を戻します。平成31年5月に、EAEVEの認証取得の必須条件である、附属動物病院の24時間/7日の開院をスタートしました。ポリクリ強化と24時間/7日の開院のために、外部資金と病院収入などの自己財源により特任教員の雇用を進めました。一方で、北大は経営状況の悪化から、平成29年に教員人件費ポイントを7.5%削減する方針を決定し実行しています。活発に教育研究を進めている小部局ほどその影響は大きく、獣医学研究院では、教授3名減あるいは助教5名減に相当します。ご紹介した通り、学部では、国際認証取得と学部教育国際化の推進、大学院では卓越大学院プログラムの実施による大学院教育研究の高度化、を進めています。これらの推進は人員増が不可欠ですが、自己財源等で特任教員を増やす一方で、北大の教員人件費ポイント削減による正規教員の減少という、矛盾を抱えつつ教育研究を進めています。元来、教員個々の馬力があり、いざというときに結束して人員数以上の力を発揮できる獣医学部ですが、それも限界があります。この状況が続くと、教員の疲弊が進み研究活動の低下が懸念されます。現在、この流れに抗う具体的方策は見いだせていませんが、この難局を教職員一丸となって乗り切る覚悟です。また、そのためには、学外の官産諸機関と連携した教育研究の推進が必要となります。同窓兄姉には、これまでの支援に感謝しつつ、今後より一層のご支援、ご協力ならびにご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。