ネコの腎臓にみられる種特異的な特徴

ネコ腎臓の構造的な特徴に関する報告が発表されて100年以上経ちますが、不明な点は未だ多く残されています。当研究室では、ネコとイヌの正常な腎臓の組織学的特徴、とくに再吸収装置である尿細管の構造を比較し、下記を明らかにしました。

  1. 脂肪小滴:成ネコ(23-27ヶ月齢)の近位曲尿細管上皮細胞の細胞質には多くの脂肪小滴がみられましたが、同月齢のイヌではほとんどみられませんでした。両種ともに、遠位尿細管や集合管に脂肪小滴はほとんど観察されませんでした。
  2. 尿細管形態:成ネコの腎皮質では、近位尿細管の占める割合がイヌより高く、遠位尿細管や集合管の割合は低くなっていました。また、ネコの近位尿細管の上皮細胞はイヌより大きく、近位曲尿細管、遠位尿細管、集合管の内腔はネコの方が狭くなっていました。
  3. 若齢ネコ:6ヶ月齢の若いネコでは、近位直尿細管に多くの脂肪小滴がみられ、その出現と脂質代謝の発達との関連性が示唆されました。
  4. 糖鎖修飾:21種類のレクチンを用いた組織化学的解析により、尿細管や集合管のおける糖鎖修飾の動物種差が明らかになりました。
  5. SGLT2の発現:ナトリウム-グルコース共輸送体2(SGLT2)は腎臓の近位尿細管に存在し、糖の再吸収を担う主要な輸送体です。 近年では、SGLT2阻害薬・ベラグリフロジンが、ネコの糖尿病治療薬として注目されています。SGLT2は、成ネコでは脂肪小滴の少ない近位直尿細管を除く近位尿細管に発現していました。成イヌでは、近位曲尿細管に発現を確認しました。

これらの発見は、ネコとイヌの腎臓の組織学的特徴や病態生理を理解する上で重要です。今後も種特異的な腎臓の構造や機能の違いを明らかにし、ネコが尿細管間質性障害に感受性が高い理由を追究します。

ネコとイヌの腎臓組織像の模式図

図1. ネコとイヌの腎臓組織像の模式図

上部の模式図は成ネコのネフロンと集合管(CDs)を示しています。ネコでは、近位尿細管(PTs)は上皮細胞の細胞質内の脂肪滴(LDs)含有量に応じて4つのセグメントに分けられます:近位曲尿細管(PCT)LD++、PCTLD+、近位直尿細管(PST)LD+、PSTLD-の順に糸球体から並んでいます。ネコとイヌの腎臓のPTの上皮細胞はナトリウム-グルコース共輸送体2(SGLT2)のmRNAを発現していますが、ネコのPSTLD-とイヌのPSTでは発現していません。下部の模式図に示すように、遠位尿細管(DTs)と集合管(CDs)は、ネコとイヌにおけるTamm-Horsfall蛋白1(THP1)、カルビンディン-D28K(CD28K)、アクアポリン2(AQP2)の発現の違いによって可視化できます。DTsとCDsのサイズと内腔は、成イヌに比べて成ネコの方が小さく狭くなっています。 PLoS One. 2024 Jul 3;19(7):e0306479.

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