骨格筋の発生およびリモデリングに関連する分子

骨格筋の発生は、間葉系幹細胞が筋芽細胞へと分化し、筋芽細胞が相互に癒合して多核の筋管へと分化を遂げ、最終的に収縮能力を有する筋線維と成熟します。

筋芽細胞の分化には筋分化特異的位遺伝子群(muscle regulatory factors; MRFs)と呼ばれる遺伝子群が重要な役割を果たし、Myf5、MyoD、MyogeninおよびMRF4が含まれます。

MRFsなどの遺伝子群の作用を背景とし、筋分化において筋芽細胞はアクチン細糸の分解・再構築、細胞膜の融合、細胞内小器官の再編成など非常にダイナミックな形態学的変化を引き起こします。

本研究では、この形態学的変化がアポトーシスにおいて認められる細胞の形態学的変化と類似することに着目しました。

アポトーシスシグナルカスケードにおいてその実行因子として主役を演じるのはカスパーゼファミリーと呼ばれるセリンプロテアーゼの一群です。本研究では、カスパーゼファミリーが骨格筋の分化を制御するという仮説を立て、その立証を試みました。

まず、マウス胎子骨格筋の筋芽細胞においてカスパーゼ3, 9,12の遺伝子および蛋白が発現していることを確認しました。

筋芽細胞におけるカスパーゼ遺伝子の発現

図. 筋芽細胞におけるカスパーゼ遺伝子の発現

in situ hybridization法。
E12.5 (a, b, c), 13.5 (d, e, f), 15.5 (g, h, i), 17.5 (j, k, l)。

これらの遺伝子発現を時空間的に解析したところ、その動態はMRFsの一種であるMyoDの発現動態と一致しましたが、アポトーシス関連遺伝子(Fasl, Bax, Rock1)とは一致しませんでした。すなわち、骨格筋発生におけるカスパーゼファミリーの活性化は、アポトーシスというよりも筋芽細胞の分化に深く関与することが示唆されました。

心筋も骨格筋と同様に横紋筋です。近年、心筋の再生医療のため、シート状に培養した心筋細胞移植法などが開発されているが、心筋細胞への分化効率の改善が課題です。今後、マウス胎子心筋における活性化と細胞死の関連性を解明し、再生医療分野における心筋細胞分化効率改善を目指して研究を進めています。

一方、筋ジストロフィーは筋細胞の破壊・変性と再生を繰り返し、次第に筋の機能形態異常が進行する遺伝性疾患です。mdxマウスはジストロフィン遺伝子のエクソンに変異(TAA, 終止コドン)が入り、筋ジストロフィーモデル動物として汎用されています。

私達はmdxマウスの形態解析から、筋細胞の破壊と再生は骨格筋の種類で異なり、局所炎症細胞は筋の再生と深く関与することを明かにしました。

参考文献

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