腎臓再生のために-ネフロン発生における分子基盤の解明

腎臓は体内の老廃物を排泄し、体液の恒常性を維持するための重要な器官です。腎臓の機能的な構成単位はネフロンと呼ばれます。このネフロンは部分的に再生能を認めるものの、ネフロンの総数は生後に腎臓が完成して以降、増加せず、腎臓は再生しない臓器とされています。

慢性腎炎などにより、糸球体や尿細管が障害を受けると、機能的なネフロンの数は減少し、最終的に腎不全に陥ってしまいます。つまり、このネフロン再生を可能にすることが、腎臓の再生や、腎不全克服のカギを握っていると考えています。そこで私達は、ネフロン再生を実現することを最終的なゴールとして、ネフロン発生における分子基盤の解析を行っています。

腎臓の発生は、ウォルフ管から分岐する尿管芽が後腎間葉組織に侵入することにより開始します。後腎間葉組織はLimやPax2ならびにSix/Eya/Dachシグナルなどを介して、液性因子のGDNFを発現します。後腎間葉組織から放出されたGDNFは尿管芽で発現するGDNFレセプター因子であるRetに作用し、尿管芽の分岐を促します。その結果、尿管芽は樹状に広がり、最終的に腎盤および集合管を形成します。その一方、尿管芽の先端ではWnt4/9bの発現を介して後腎間葉細胞が凝集し、後腎間葉凝集体を形成します。後腎間葉凝集体は後腎小胞、コンマ字体、S字体へと形を変え、最終的に糸球体、近位尿細管、薄壁尿細管(ヘンレのループ)、遠位尿細管を形成します。

私達は腎臓の発生に関わる因子としてHnf4αに着目しています。これまでの研究で、Hnf4αが成熟腎臓の近位尿細管に分布し、発生過程では後腎間葉凝集体に弱い発現が分布することを明らかにしてきました。

さらに腎臓の器官培養系を樹立し、器官培養後腎にsiRNAを導入することでHnf4a遺伝子発現の抑制を行いました。その結果、Hnf4αの発現抑制がネフロンの発生原基である後腎間葉凝集体にアポトーシスが生じることを明らかにしてきました。すなわち、Hnf4αは後腎間葉凝集体に分化した細胞の生存に関わっていることが示唆されます。

今後、Hnf4αを中心とした転写因子のネットワークを明らかにし、ネフロン形成の分子基盤、すなわち、『ネフロンのレシピ』の一端を解明していきたいと考えています。

参考文献

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