肥満細胞はほぼ全ての臓器に存在し、自然免疫及び獲得免疫において外来抗原に対する監視細胞として機能しています。ヒトを含む数種の哺乳類において、肥満細胞は成体の雌性生殖器にも存在し、性周期に応じてその数が増減することから、肥満細胞と生殖機能との関連性が示唆されています。
本研究では、自己免疫疾患モデルであるMRL/MpJマウスの新生子期卵巣に多数の肥満細胞を発見し、その機能的意義の解明を目的としています。
出生前後のMRL/MpJマウス卵巣における肥満細胞は対照系統のC57BL/6Nマウスよりも有意に多く、0日齢をピークに一過性に増加し、とくに卵巣表面上皮に隣接して分布していました。一方、0日齢のMRL/MpJマウス卵巣に他の免疫細胞は少数しか認められませんでした。
生後0日齢MRL/MpJマウスにおいて、表面上皮からなるnest内の肥満細胞は他の系統に比較して最も多く、かつnest内の卵細胞数は有意に少ないことが分かりました。更に、nest内の肥満細胞は、圧迫または変性した卵細胞に直接接していました。
以上の形態学的観察より、肥満細胞が卵細胞の分化成熟に何らかの役割を担うことが示唆されました。とくに、表面上皮からなるnest内に包含された卵細胞が、卵胞上皮をまとった原始卵胞に分化する過程(nest breakdown)において、卵巣内肥満細胞が卵細胞死に関与し、初期卵胞形成を早めている可能性が考えられました。
興味深い事に、MRL/MpJマウスの卵胞形成はC57BL/6Nマウスよりも早く進行することも分かりました(Yamashita et al, 2015)
図1. 生後0日齢マウス卵巣における肥満細胞の出現
Tpsab1: 肥満細胞マーカー
図2. 0日齢MRL/MpJマウス卵巣の電子顕微鏡像
Oc: 卵細胞、MC: 肥満細胞、SE: 表面上皮細胞、FE: 卵胞上皮細胞、黄色の点線はnestを示す。
では、MRL/MpJマウスの卵巣内肥満細胞はどのような因子に制御されるのでしょうか。
我々は、MRL/MpJマウスと卵巣内肥満細胞が少ないC57BL/6Nマウスを交配させて得たマウスの解析結果から、卵巣内肥満細胞の出現には母体由来の環境因子及び子由来の遺伝的因子が関与すること、後者における責任遺伝子は第8染色体上の2箇所に存在することが明らかになりました。
現在、卵巣内肥満細胞の消長機構や役割について更に詳細に解析しています。
本研究の一部は、JSPS科研費(No24380156)の助成を受けて行っております。