精巣内卵細胞の出現メカニズムの解析

哺乳類の生殖腺、および生殖細胞は本来、雄にも雌にもなれる性質を示します。生殖腺の性決定は胎子期に雄の生殖腺体細胞が性決定因子であるY染色体上のSex determining region on Y chromosome (Sry)を発現することで起こります。

一方、生殖細胞は、その性染色体組成に関わらず、胎子期に減数分裂に移行して卵細胞となる資質を有しますが、雄では周囲の体細胞が減数分裂への移行を阻害することによって、生殖細胞を精子形成細胞へと分化させます。この機構により、雌では卵巣内で卵のみが、雄では精巣内で精子のみが産生されることになります。

生後12日齢のMRL/MpJマウスの精巣内卵細胞(ホールマウント標本:矢印)

図1. 生後12日齢のMRL/MpJマウスの精巣内卵細胞(ホールマウント標本:矢印)

生後14日齢のMRL/MpJマウスの精巣内卵細胞(HE染色像)

図2. 生後14日齢のMRL/MpJマウスの精巣内卵細胞(HE染色像)

では、MRL/MpJマウスの精巣内卵細胞はどのように形成されるのでしょうか。

MRL/MpJマウスの胎子精巣では、一部の生殖細胞が本来阻害されているはずの減数分裂に移行します。これらの減数分裂に移行した生殖細胞は、性染色体組成がXYであり、精巣内卵細胞へと分化することがわかっています。

また、MRL/MpJマウスと精巣内卵細胞を産生しないC57BL/6マウスを交配させて得られたマウスの観察結果から、精巣内卵細胞出現の関連遺伝子は複数存在し、責任遺伝子は常染色体とY染色体上に少なくとも1つずつ存在することが明らかになりました。

このように、MRLマウス精巣内では精子形成過程と卵形成過程が同時に進行していると考えられ、哺乳類の生殖生物学の分子基盤を解明する上で極めて有用なモデルであると考えられます。

本研究の一部は、科学研究費補助金(2007-09年, No.19380162;2008-9年, No.20001195;2010-11, No.122780257)、ノバルティス科学振興財団(2006年, 20回研究奨励金)、倉田奨励金(2009年)、武田科学振興財団(2010年)、公益信託林女性自然科学者研究助成基金(2010年)の助成を受けて行っております。

参考文献

戻る