暑熱ストレス下における精子形成の破綻メカニズム-熱感受性を規定する因子の解明-

ほとんどの哺乳類の精巣は陰嚢内に存在し、精子形成は体温より若干低い環境で行われています。暑熱環境に曝された精巣では、将来精子となる精細胞の死滅や精細胞の分化・成熟を支持するセルトリ細胞の機能障害などが誘導され、妊孕性が著しく低下します。

これまで私達は、マウス精巣の熱反応性には系統差があり、MRL/MpJマウスは他系統のマウスに比べ熱抵抗性を示すこと、さらに、この表現型をもたらす責任遺伝子は1番染色体および11番染色体上に存在することを報告してきました。

本研究では現在、精巣の熱感受性を規定する因子とその機能の解明を目指して、MRL/MpJマウス由来の熱抵抗性責任遺伝子座を有するコンジェニックマウス(B6.MRLc1、B6.MRLc11、B6.MRLc1c11)を用いた解析を行っております。

熱ショック(43℃、20分間の半身浴)処置後まもなくの精巣では、熱感受性マウス(C57BL/6マウス)と1番染色体上の責任遺伝子座を持つB6.MRLc1マウスとの間で精巣の変性像(精細胞の死滅、セルトリ細胞の形態異常)に差が認められませんでした(図C、D)。一方、熱ショック処置後長期間が経過したB6.MRLc1マウスの精巣では、重度の精巣の変性により誘導される石灰沈着の発生が抑えられており、一部で精子形成の回復も認められました(図E、F)。

熱ショック処置後における精巣組織像

遺伝子発現解析の結果、B6.MRLc1マウスの精巣では、1番染色体の責任遺伝子座上に存在するGrem2の持続的高発現が認められました。さらに、Grem2の発現量と石灰沈着の発生率には負の相関が認められました。このことから、Grem2が暑熱ストレスによる精巣のダメージ修復あるいは石灰沈着の抑制に関与している可能性が強く示されました。

今後は、B6.MRLc11およびB6.MRLc1c11マウスを用い、11番染色体上の責任遺伝子の解析を進めていきます。

本研究の一部は、JSPS科研費(No24002135; No24380156)の助成を受けて行っております。

参考文献

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