CKDにおける足細胞傷害の精査

慢性糸球体腎炎などCKDへとつながる一次疾患の多くは、薬物や免疫複合体によってまず糸球体が障害を受け、その後糸球体から漏出した蛋白質が尿細管間質病変を引き起こし、最終的に末期腎不全へと移行します。

そこで我々は、病態の初期と考えられる糸球体足細胞傷害に焦点を当て、その病態を精査しています。

自己免疫性糸球体腎炎モデルであるBXSB/MpJ-Yaaマウスは、Y染色体上に存在するYaa遺伝子により、雄で重篤な自己免疫傾向とそれに続発する慢性糸球体腎炎を発症します。 BXSB/MpJ-Yaa マウス足細胞では足突起癒合などの超微形態変化、各機能因子の発現低下といった足細胞傷害を示し(図3)、これらの変化は糸球体機能障害スコアと相関を示しました。これらの結果は、CKD進行における足細胞の形態機能の重要性を示しています。

足細胞の透過型(TEM)および走査型(SEM)電子顕微鏡像

図1. 足細胞の透過型(TEM)および走査型(SEM)電子顕微鏡像

BXSB/MpJ-Yaaマウスの糸球体では糸球体基底膜(GBM)の肥厚、足突起(Fp)の癒合、微絨毛(villus)様構造の出現がみられる。

さらなる糸球体病変、特に足細胞傷害の病理学的機序解明のため、我々はBXSB/MpJ-Yaaマウスにおける病態増悪遺伝子であるYaa遺伝子座上のToll-like receptor(TLR)ファミリーに着目しました。近年、TLR ファミリーは局所の自己免疫応答を制御する抗原センサーとして注目されていますが、慢性糸球体腎炎における役割は依然としてわかっておりません。

そこで我々は、慢性糸球体腎炎モデルマウス糸球体におけるTLRファミリーの解析を行っております。

遺伝子発現および局在解析の結果、BXSB/MpJ-Yaaマウス糸球体ではTLR8が足細胞に高発現していること、またそれらの発現量が糸球体機能障害スコアと相関を示すことを突き止めました(図)。さらに、BXSB/MpJ-Yaaマウス尿中において、健常マウスに比べTlr8 mRNAが高レベルに検出されることが明らかとなりました。これらの結果は、TLR8を介したシグナルの過度の活性化がCKDの足細胞傷害に深く関与すること、さらにTLR8がCKDの新たな診断ならびに治療法開発の標的分子となる可能性を示しております。

糸球体におけるTLR8蛋白の局在

図2. 糸球体におけるTLR8蛋白の局在

TLR8陽性反応は足細胞マーカーであるSynaptopodinの陽性反応と一部マージする。BXSB/MpJ-Yaaマウスの糸球体において、TLR8陽性反応が健常個体のそれよりも弱い。

本研究の一部は、科学研究費補助金(No.13J00961,24688033)の助成を受けて行っております。

参考文献

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