伴侶動物で増加するCKDの病理像

獣医療の発展に伴い、伴侶動物の寿命は延長しており、高齢動物におけるCKD罹患率の増加は深刻な問題です。

これらを背景に、獣医学領域でもCKD対策の必要性が講じられ、International Renal Interest Society (IRIS) によって、血中クレアチニン値 (Cre) を指標としたイヌおよびネコのCKDステージ分類が提唱されています。

ヒトでは、慢性糸球体腎炎や糖尿病性腎症などの糸球体疾患がCKD一次疾患の上位を占めます。CKDにおいて、糸球体濾過バリアーの破綻に起因する尿中蛋白の増加は、低蛋白血症や再吸収負荷の増大に伴う尿細管上皮細胞傷害を引き起こします。

腎臓の糸球体毛細血管壁は、血管内皮細胞、基底膜および糸球体上皮細胞足突起によって構成されており、糸球体上皮細胞の足突起間には、「スリット膜」と呼ばれる構造物が構成され、内皮細胞、基底膜およびスリット膜の三層構造が全身循環血液の濾過バリアーとして機能しています。

近年、ヒトおよび実験動物で、糸球体上皮細胞の減少 (Podocytopenia) およびスリット膜関連分子の遺伝子多型や機能低下が糸球体傷害に深く関与することが報告されています。本研究では、伴侶動物のCKDにおける糸球体上皮細胞傷害に着目し、イヌおよびネコのCKDにおけるスリット膜関連分子(ネフリン、ポドシン、ACTN4など)の動態と腎機能の関連性を解析しております。

イヌおよびネコの腎臓において、ネフリン、ポドシンおよびACTN4は糸球体係蹄に沿って線状に局在し、イヌのCKD群におけるネフリンおよびACTN4陽性シグナルは健常群よりも弱く、顆粒状シグナルを示す部分も認められます。

CKDのイヌにおけるスリット膜関連蛋白の局在

図. CKDのイヌにおけるスリット膜関連蛋白の局在。

遺伝子発現解析の結果、イヌのCKD群におけるネフリンmRNA発現量は健常群よりも有意に低く、腎機能との相関解析ではCreとネフリンに有意な逆相関が認められました。一方、ネコではスリット膜関連分子の動態と腎機能の間に有意な相関は認められません。

以上より、CKDにおける糸球体上皮細胞傷害およびスリット膜関連分子の発現低下は、ネコよりもイヌで顕著に認められ、イヌの腎臓におけるスリット膜関連分子の発現量低下は腎機能悪化と強く相関すると考えられます。

CKDの病理発生メカニズムはイヌとネコで異なり、獣医腎泌尿器学領域では種特異的なCKD制御戦略の重要性を提唱しております。

本研究の一部は、科学研究費補助金(No21880002, 24688033, 15H05634)、栗林育英財団(2009-10年)の助成を受けて行っております。

参考文献

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