水頭症は脳脊髄液が脳室内に貯留することで発症する難治性疾患で、特に狭窄部である中脳水道の閉塞により発症することが多い疾患です。一方で明確な原因を特定できない症例も多く、その発生機序については未だ不明な点が多く残されています。
本研究では遺伝的背景の異なる5つの近交系、MRL/MpJ 、C57BL/6、C3H/He、DBA/2およびBALB/c マウスにおける脳室腔の系統差を明らかにすることで、脳室拡張発生機序および新たな水頭症モデルマウス発見の可能性について検討しました。
マウス側脳室の体積および表面積には有意な系統差が存在し、MRL/MpJマウスが最も高い値を示しました。さらにMRL/MpJマウスは第三脳室、中脳水道、第四脳室いずれも、他系統マウスと比較し拡張していました。
図. MRLマウスの側脳室の光顕像とサイズの系統差
また若齢のMRL/MpJおよびBALB/cマウスの側脳室腔を比較したところ、0日齢で既にMRL/MpJマウス側脳室の拡張していることが明らかになりました。両マウス系統側脳室外側壁の上衣細胞について超微形態学的に比較した結果、上衣細胞は6型に分類されたが、これらの細胞割合に大きな差は認められませんでした。しかし興味深いことに、MRL/MpJマウスはBALB/cマウスに比べ脂肪小滴が少なく、その直径も小さいことが明らかとなりました。上衣細胞は脳脊髄液中の栄養物質をエンドサイトーシスにより吸収することが知られており、その機能低下が脳室拡張の一因となる可能性が推察されます。
上述の結果から、MRL/MpJマウスは他系統マウスに比べて、最も脳室が拡張しているマウスであることが明らかになり、器質的重度障害を合併しない軽度水頭症モデルとして有用であると考えられます。
今後、その発生機序および原因因子について検討することにより、水頭症発症メカニズムの新たな解明の糸口になることが期待されます。