自己免疫性糸球体腎炎は全身性自己免疫疾患に合併し、主として血中を循環する免疫複合体が糸球体に沈着することで発症します。本研究では、自己免疫疾患モデルマウスであるMRLマウス由来第1染色体テロメア領域を有するコンジェニックマウス(B6.MRLc1(82-100))を作出し、自己免疫性糸球体腎炎モデルとしての有用性の確認、本症の病態解析、原因因子および増悪因子の検索を行っております。
B6.MRLc1(82-100)マウスの糸球体傷害は雌で重篤で、糸球体の増殖性病変および膜性病変は加齢性に発症します。他に、脾臓重量、腎機能悪化および抗dsDNA抗体濃度の増加が認められます。原因遺伝子の解析では、第1染色体約92.3cMに存在する抑制型および活性化型FcγR遺伝子(Fcgr2b, Fcgr3)を原因遺伝子の候補として選抜し、両遺伝子発現のバランス変化が自己免疫性糸球体腎炎の病理発生に深く関与することを報告しております。
このMRLマウス由来第1染色体テロメア領域は膵臓の炎症にも関わっていました。
図. B6.MRLc1(82-100)マウスの第1染色体と糸球体の病理組織像
また、B6.MRLc1(82-100)マウスの雌雄差の一因として性ホルモンの影響に着目し、性腺摘出術を施し解析しました。結果、去勢雌の糸球体病変は正常化したが、去勢雄は自己免疫性糸球体腎炎を発症し、自己免疫性糸球体腎炎の病態の雌雄差は、雄性ホルモンの病態抑制作用の影響を強く受けることを明らかにしました。
B6.MRLc1(82-100)マウスの腎臓において、発現が上昇している炎症性メディエーターをPCRarray法で網羅的に解析し、Cxcl5およびIl1f6 がそれぞれ糸球体局所および尿細管間質における病変の増悪因子として重要な役割を果たすことを明らかにしました。
また、他の自己免疫性糸球体腎炎モデルであるBXSB/MpJ-Yaaマウスは、Y染色体上に存在するYaa遺伝子により、雄で重篤な自己免疫傾向とそれに続発する慢性糸球体腎炎を発症します。しかしながら我々は、Yaa遺伝子を持たない雌においても、加齢性に重篤な自己免疫性糸球体腎炎を発症することを明らかとしました。
興味深い事に、遺伝子発現解析の結果、雌のBXSBマウス腎臓では第一染色体テロメア領域にコードされているFcgr3やIfi200ファミリー遺伝子が高発現しており(図1)、それらの発現量はYaa遺伝子座により増強されることが明らかとなりました。すなわち、BXSB-YaaマウスにおけるCKD進行には、Yaa遺伝子座による第一染色体テロメア領域由来糸球体腎炎原因遺伝子の発現増強作用の影響を強く受けることを明らかとしました。
結論として、これらのマウスの解析によって、ゲノムに由来する自己免疫性糸球体腎炎原因遺伝子、性ホルモンおよび腎局所における病態増悪因子の量的変化が本症の病理発生に深く関与することが明らかとなりました。現在、これらのモデルマウスを利用して自己免疫疾患や慢性腎臓病の研究を進めています。
本研究の一部は、科学研究費補助金(2004-06年, No16380194; 2007-09年; No.19380162; 2007-8年, No.07J00862, 2013-14年, No.13J00961)、ノーステック財団(2004年度)の助成を受けて行っております。