高精度放射線治療のご紹介

お問い合わせ先:011-706-5239

 

北大動物医療センターでは、2014 年に放射線治療設備を更新し、高精度放射線治療システム(Elekta 社 SynergyR)を導入しました。動物の高精度放射線治療は国際的にも数少なく、国内では唯一の施設となります。従来の通常リニアック(放射線治療装置)では対応できなかった様々な悪性腫瘍に対する有効な新治療となる可能性が期待されています。

  • 専門スタッフによる週 5 回の分割照射
    獣医放射線腫瘍学専門医(米国資格)の指導のもと、麻酔専門獣医師を含む約 10 名のスタッフが治療を担当しており、週 5 回(計 15~20 回)に分割した放射線障害の少ない治療法を行っています。

  • 画像誘導システムによる正確な位置精度
    治療機本体に一体化した CT 装置と治療室に装備された赤外線カメラにて、治療時の動物の位置を 1mm 未満の誤差で再現し、正常組織を避けた正確な放射線照射を行います。呼吸による治療中の腫瘍の動きにも対応します。

  • 複雑な腫瘍形状に対応する照射法
    回転式強度変調照射法(VMAT)を動物で実践している国際的にも数少ない(2014 年現在世界で 2 施設)施設の一つです。VMAT は、麻酔時間の短縮と副作用の軽減を同時に実現し、動物の負担を最小限にとどめます。

  • 正確な線量投与のためのコンピュータ演算
    現在最も正確とされる演算法(Monte Carlo 法)を用いて、体内の線量分布を計算します。作成された照射プランは、1症例ごとに治療開始前に線量分布を実測して正確性(±3%/2 ㎜)を確認し、患者の安全を確保しています。

  • 極小の照射野を用いたピンポイント照射
    1cm 未満の小さな腫瘍でも周囲の正常組織を傷つけない、極小照射野で治療できます。脳腫瘍の治療などで効果を発揮します。

高精度放射線治療が適用される腫瘍

脳腫瘍
髄膜腫、神経膠腫、下垂体腫瘍、神経鞘腫など
頭顎部
鼻腔腫瘍、口腔腫瘍、甲状腺癌、眼窩腫瘍、喉頭腫瘍など
胸腔
胸腺腫、心臓腫瘍、縦隔リンパ節転移、初期の肺転移など
腹腔
肝臓腫瘍、副腎腫瘍、胃・膵臓の腫瘍、腹腔内リンパ節転移など
骨盤腔
膀胱腫瘍、前立腺腫瘍、転移性リンパ節など
骨腫瘍
四肢の骨肉腫の患肢温存治療、椎体腫瘍など

個々の症例が放射線治療の適応かどうかについては、担当までお問い合わせください(011-706-5239)。

おもな放射線治療の種類(この他にも通常の放射線治療も実施しています)

回転型強度変調放射線治療

VMAT

Volumetric Modulated Arc Therapy: VMAT

 

 照射装置が動物のまわりを回転しながら、連続的にビームの形を腫瘍の形に変形させます。さらに、照射中に装置の回転速度とビームの出力(線量率)を変化させることにより、不必要な部位への照射を避け、いびつな腫瘍形状に合わせた線量分布を作り出します。回転しながら連続的に照射することで、一回の治療時間を通常の強度変調放射線治療の約 1/5~1/3 に短縮でき、動物の麻酔の負担を最小限にできる画期的な照射法です。通常は標準的な分割照射に用いますが、後述する SRT・SRS にも VMAT技術を応用することがあります。

定位放射線治療

SRT

Stereotactic Radiation Therapy: SRT, Stereotactic Body Radiation Therapy: SBRT

 

 特殊なビーム成型装置を取り付けて、極小のビームを腫瘍のある 1 点を中心に弧を描くように照射します。これを 1~3 回、異なる方向から同一点を中心として照射(non-coplanar DCAT 法)することで、腫瘍部位に極端に線量を集中させる方法です。照射領域を腫瘍部位に限局させ、周囲の正常組織にほとんど被ばくを起こさないため、全治療線量を 2~3 日間に集中して照射します(2~3 回の連日照射)。主に脳腫瘍の治療や頭頸部がんの治療に用いられます(SRT)が、肺転移などの体幹部病巣の治療にも用いることが可能です(SBRT)。3 日程度で治療が終了するため、遠方からお越しの場合でも短期間の滞在で治療が可能です。

定位手術的照射、放射線外科療法

SRS

Stereotactic Radiosurgery: SRS

 

 上記の定位放射線治療をさらに極端にしたもので、全治療線量を 1 回で照射してしまう方法です。極端に高い線量を一括投与することで、通常放射線抵抗性の腫瘍にも有効な治療法です。ガンマナイフ、サイバーナイフという治療器名がつけられるように、放射線治療というよりは外科療法に近いコンセプトの治療法です。メスで切り取る代わりに放射線で腫瘍部位を集中的に“焼き尽くす”治療法です。小動物では、四肢の骨の腫瘍の治療において、従来の第一選択である断脚に代わる、患肢を温存できる新治療法として臨床応用されています。また、比較的初期の小さな脳腫瘍も SRS で治療することができます。大きな病変や、周囲正常組織に浸潤していて境界が不明瞭な腫瘍には適用できません。