血液内科のご紹介

 血液中に含まれる赤血球、白血球、血小板の異常を担当するのが血液内科です。受診するきっかけとして一番多いのは貧血です。貧血になると、口腔粘膜や舌の色が白っぽくなり、元気や食欲が落ちてしまいます。ヒト(特に女性)は鉄分不足が原因で貧血になることが多いですが、犬や猫が鉄欠乏になることは珍しいので、鉄分の補給をしても貧血が治ることはほとんどありません。したがって血液内科では、貧血の原因を明らかにするため全身を調べることが多く、必要に応じて血液の工場である骨髄の中身を確認することもあります。

 

貧血によって口腔粘膜が白い

 

 貧血の次に多い来院理由として、血小板減少症が挙げられます。血小板は止血に関わる血液成分ですので、極端に少なくなると皮下や粘膜から自然に出血してしまいます。ぶつけたりしていないのに皮膚に出血斑ができてしまったり、歯ぐきの出血、鼻血が観察された場合には、血液内科の受診をご検討ください。

 

歯ぐきの出血

診療内容の紹介

血液塗抹標本の観察

 血液塗抹標本を用いて赤血球、白血球、血小板の形態を観察します。注意深く観察すると、それぞれの細胞の形態異常が見つかることがあり、時にはその異常所見が病気を診断するヒントになる可能性があります。

 

球状赤血球

正常な赤血球よりも小さく濃く染まる球状赤血球(矢印)が増加している。

免疫介在性溶血性貧血を疑う所見の1つである。

 

エキセントロサイト

端が癒合し染色されない領域を持つ赤血球(矢頭)が観察される。

赤血球膜の酸化傷害を示唆する所見であり、その原因としてニンニクの誤食が考えられた。

 

慢性リンパ性白血病

同じ形態を示すリンパ球(矢頭)が増加している。

画像診断

 赤血球、白血球、血小板の数は、他の病気に関連して増減することがあります。血液検査で異常が見つかった場合、「実は内蔵の病気が原因であった」という例も少なくありません。したがって最初から血液の病気だと決めつけずに、レントゲン検査や超音波検査などの画像診断を用いて病気が隠れていないか詳しく確認することが重要です。

 

消化管腫瘍のCT検査画像

貧血の犬に認められた小腸の腫瘍(破線)。

小腸(矢頭)に隣接して腫瘤が形成されており、慢性的な消化管出血が起きていたために貧血が進行していた。

骨髄検査

 前述の通り、骨髄は「血液の細胞を作る工場」の役割を果たしています。血液の細胞が減ってしまう原因の1つに骨髄での造血障害がありますので、その可能性が高い場合には骨髄検査の適応になります。骨髄検査の実施には麻酔が必要となるため、当院では検査の必要性を十分検討した後に実施するかを決めるようにしています。検査についてご不明な点がございましたら、遠慮なく担当医にご質問ください。

診療日

 
担当医 森下 森下 森下 森下 森下

※救急患者の場合はこの限りではありませんので、受付までお問い合わせください。

診療科スタッフ

教員

森下 啓太郎

獣医師

菅原 芽伊

テオ ヤン ビン(ロビン)

内科専科研修獣医師

山口 敬央

吉田 紫乃

片山 蒼

越田 凜太郎

澤村 飛龍

立花 圭

全科研修獣医師

遠藤 孝晟

青柳 拓

長谷川 萌慧

平田 和樹

日馬 凜王

丸子 冬聖

横倉 克

博士課程

イ スンヨン

川上 侑記

塩原 希

佐藤 景

前田 和花

疾患の紹介

疾患名:非再生性免疫介在性貧血 (non-regenerative immune-mediated anemia: NRIMA)

 当院には、原因不明の非再生性貧血を呈する犬が多く来院します。患者さんの多くに、以下の所見が認められます。

  • 重度の非再生性貧血を呈する。
  • 貧血の原因となる基礎疾患が認められない。
  • 末梢血では重度の貧血を呈しているにもかかわらず、骨髄中の赤芽球系細胞(赤血球の親)はむしろ多いのが典型的。

 

NRIMAに罹患したミニチュア・ダックスフンドの骨髄像

やや大型の赤芽球(矢印)は多数認められるが、それよりも分化段階の進んだ小型の赤芽球(矢頭)が極端に少ない。

 

 図7はNRIMAに罹患したミニチュア・ダックスフンドの骨髄の写真です。骨髄中には多くの赤芽球系細胞が観察されますが、赤芽球の分布を詳しく見てみると、「大型で未熟な赤芽球>小型の成熟した赤芽球」であることが分かります。途中まではたくさん作られている赤芽球が、特定のステージ以降に分化・成熟しないようにも見えます。

 この病気にかかってしまった犬の中には、免疫抑制療法によって貧血が改善する患者もいます。したがってこの病気は、「骨髄中の赤芽球系細胞に対す自己免疫反応」ではないかと考えられてきました。しかし免疫抑制療法に全く反応を示さない患者もいるため、現在までのところ病態が解明されているとは言えません。

 当院では、これまで蓄積した症例情報をもとに、飼い主様に正確な情報を提供し、よく話し合いながら治療方針を決めるよう心がけています。また今後も症例情報を蓄積し、治療成績の向上ならびに病態解明を目指して努力しています。